全地球測位システム(GPS)
1. イントロダクション
2. パイロットはどこだ
3. 正確な時間と場所
4. それは基礎研究から始まった
5. 時間の本質を調べる機器
6. ラビの時計
. 実用的な使い道
8. GPSとその将来像
9. クレジット
それは基礎研究から始まった
 GPSの歴史をたどると,基礎研究がいかにして国の存亡にかかわる国防技術を可能にし,次いで産業分野に応用を広げてきたのかが明らかになる。数多くの技術革新がGPSの開発に貢献した。例えば人工衛星の打ち上げ・制御技術や半導体素子,マイクロチップ,相関回路,到達時差計測技術,マイクロ波通信,無線航行などだ。だがこの記事では,原子の世界の本質を理解しようとする試み,特にアインシュタインの相対性理論を調べようと原子時計を作ったことが,いかにして高精度の時計の実現に結びついたのか,そして衛星追跡技術とあいまって,自分たちの場所と行き先を知るという人間の基本的な欲求を満たす実用技術に使われるようになったのかという点に焦点を絞って紹介する。

 何世紀もの間,船や飛行機などの運航では,太陽と星を観測することによって自分の位置を知る推測航法に頼るしかなかった。近代的な時計が開発され,時刻をもとに経度を求められるようになってからも,最高精度の装置でも数kmの誤差があった。ところが,1957年10月4日,ソ連がスプートニクを打ち上げ,人工衛星を航行支援に使えることがわかった。早くもその翌日,マサチューセッツ工科大学(MIT)リンカーン研究所の研究者らは,スプートニクの軌道を正確に割り出した。人工衛星が近づくと,それが発している無線信号の周波数が見かけ上は高くなり,遠ざかると下がる。このドップラー効果を観測したのだ。人工衛星の軌道を地上から正確に求められることが,こうして証明された。これは,人工衛星からの信号に基づいて地上の位置を求めるための第一歩だった。

 その後,米国海軍は一連の衛星航法システムの実験に乗り出した。最初は1965年の「トランジット・システム」で,ポラリス核ミサイルを搭載した潜水艦向けに開発された。これらの潜水艦は敵に察知されないよう,何カ月も潜行を続ける必要がある。しかし,ジャイロスコープに基く慣性航法では,そんな長期間にわたっては精度を保てない。これに対し,「トランジット・システム」は極軌道を周回する6個の人工衛星からなっていた。これらの衛星が発する無線信号を分析すると(基本的にはドップラー効果を計測する),潜水艦は10〜15分で自分の位置を正確に割り出せる。

 1973年,米国国防総省はもっと簡単な衛星航法ができないか検討を始めた。レイバーデイで連休になる週末をつぶしてブレーンストーミングが行われ,それまでの衛星に関する経験に基づいてGPSのコンセプトを編み出した。GPSの中核はロックウェル・インターナショナルが製造する24個のナブスター衛星で,1つひとつが大型車ほどのサイズをしており,重量は1900ポンド(約860kg)。各衛星は12時間で地球を1周し,地球上のどの場所でも常に少なくとも4つの人工衛星からの無線を受信できるように配置される。1978年に最初のGPS衛星が打ち上げられ,1993年に24個の衛星によるフル稼動に至った。

 非常に精緻な技術が使われているものの,GPSの運用原理は驚くほど単純だ。各衛星は自分の位置と,10億分の1秒の精度の時刻情報を盛り込んだデジタル無線信号を継続的に発信している。地上のGPS受信器は4つの衛星からこの情報を受け,これを用いて数十mの精度で自分の位置を計算する。受信器は自分の時計と衛星からの時刻信号とを比較し,この時間差から衛星までの距離を計算する(光の速度は秒速30万km。仮に衛星の時刻信号がGPS受信器の時計よりも1/1000秒遅れていたとすると,衛星までの距離は300kmと計算できる)。位置がわかっている3つの衛星との時間差をもとに,受信器は自分の経度・緯度・高度を求めることができる。

 上に述べた方法では,衛星と受信器の双方に極めて高精度の時計が必要だ。ところが,受信器に4つ目の衛星の信号を受信させれば,受信器の時計は腕時計に使われているような比較的単純なクォーツ時計で間に合う。受信器が4つの人工衛星の信号を受信すると,システムが後を引受けて,瞬時に位置を計算する。

 システムが機能するには,受信器が正確に衛星の位置を知る必要があり,また衛星は非常に正確な時間を確実に刻まなければならない。正確さを保証するため,各衛星は4つの原子時計を積んでいる。史上最高の精度を誇る時計だ。確実さを保証するのは,高度1万7700kmの衛星軌道だ。この軌道は大気圏のはるか上方にあり,衛星の運動は非常に正確に予測できる。国防総省は1日に2回,上空を通過する衛星を監視し,その速度・位置・高度を正確に計測している。その情報は衛星に送り返され,衛星はそれを時刻信号とともに送信する。
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