全地球測位システム(GPS)
1. イントロダクション
2. パイロットはどこだ
3. 正確な時間と場所
4. それは基礎研究から始まった
5. 時間の本質を調べる機器
6. ラビの時計
. 実用的な使い道
8. GPSとその将来像
9. クレジット
ラビの時計
 量子物理学の法則によれば,原子が吸収したり放出したりする電磁エネルギー量は飛び飛びの値をとり,これは原子を構成する電子の配置のエネルギー差,言い換えると原子核を周回する電子の配置に対応している。原子があるエネルギー準位から低いエネルギー順位へと遷移すると,共鳴周波数として知られる固有の周波数を持つ電磁波を放出する。この共鳴周波数は元素によって決まっている。例えばセシウム133なら,どの原子の共鳴周波数も91億9263万1770ヘルツでぴったり同じだ。このため,セシウム原子は極めて高精度の時間を刻むメトロノームとして利用できる。

 このような原子の性質に基いた原子時計の開発へ向けて最初の大きな進展が見られたのは1930年代のことで,コロンビア大学のラビ(I. I. Rabi)とその学生が原子と原子核の基本的な性質を調べていたころにさかのぼる。ラビは研究の過程で「磁気共鳴法」という技術を発明し,原子の固有共鳴周波数を測定した。ラビはこの業績で1944年にノーベル賞を受賞した。この年にラビは,磁気共鳴は極めて高精度で非常に正確な時計に使えるだろうと,初めて「ぶち上げた」(これは彼の学生の表現だ)。特に,原子の「超微細遷移」の周波数を利用するよう提案した。原子核と電子間の磁気相互作用の強さに応じてわずかに異なるエネルギー準位が生じるが,この間の遷移に対応する周波数のことだ。

 そうした時計を作るには,特定の超微細準位にある原子のビームを振動電磁場の中に通す。電磁場の振動周波数が原子の超微細遷移の周波数に近ければ近いほど,電磁場からエネルギーを吸収して別の準位へと遷移する原子の数が多くなる。フィードバック制御によって振動電磁場の周波数を調整していけば,ほとんどすべての原子が遷移を起こすよう,周波数をぴったり合わせられる。この状態では,振動電磁場の周波数は原子の正確な共鳴周波数と完全に一致している。これに基づいてメトロノームのように時間パルスを刻むのが,原子時計だ。

 ラビ自身は原子時計の開発はしなかったが,他の研究者がアイデアの改良を重ね,技術的に完成させた。例えば1949年,ラビの教え子の1人であるラムゼー(Norman Ramsey)は,振動電磁場に原子を2回通すと,原子時計の精度をずっと高められると提案した。ラムゼーはこの研究で1989年のノーベル賞を受賞した。
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