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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
エイズウイルスを無力に
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1. イントロダクション
2. 酵素の働きを探って
3. 阻害剤を設計する
4. エイズへの挑戦
5. ウイルスの繁殖を抑える
6. 標的をたたく
. 新たな展望
8. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■阻害剤を設計する
 容易に想像できるように,多くのプロテアーゼには天然の阻害剤が存在する。強力な酵素をうまく制御できなければ,細胞は持ちこたえていけないからだ。天然のプロテアーゼ阻害剤はノースロップとクニッツによる1930年代のプロテアーゼ研究の中で初めて発見されたが,研究室でプロテアーゼ阻害剤を設計するようになったのは10年ほど後になってからで,しかも進展は遅かった。1949年,カリフォルニア州アルバニーにある西部地域研究所のボールス(Arnold Kent Balls)は,ある合成物質(神経ガスの一種)がアセチルコリン・エステラーゼという酵素を不活性化することを発見した。アセチルコリン・エステラーゼは神経化学物質のアセチルコリンの処理に関係する酵素だ。この阻害剤は酵素の活性部位にあるセリンというアミノ酸と反応する。トリプシンやキモトリプシンといったプロテアーゼやエラスターゼもこの神経ガスによって不活性化することがわかり,これらの酵素の活性部位にもアミノ酸のセリンがあると考えられた。科学者たちは,これらのタンパク質が機能に応じてグループを形成していると結論づけた。この関連性の考え方は,その後の20年間で何度も繰り返し役に立った。
 
 この関連性の概念が初めて試されたのは1970年代,ニュージャージー州プリンストンにあるスクイブ医学研究所のクッシュマン(David W. Cushman)とオンデッティ(Miguel A. Ondetti)が高血圧を抑制する手段を研究しているときのことだった。2人はアンギオテンシン変換酵素(ACE)の阻害方法を探っていた。アンギオテンシンは腎臓で見つかったホルモンで,血圧を上げる働きがある。アンギオテンシンができるには2つのプロテアーゼが必要で,ACEはその1つだ。ACEの結晶解析画像は得られていなかったが,ACEが働く仕組みはある程度わかっていた。まず,ヘビ毒タンパク質がACEの阻害剤となること。もう1つは,ACEが働くには電荷をもつ金属原子(イオン)が必要なことだ。活性部位に金属イオンを含むプロテアーゼはメタロプロテアーゼと呼ばれ,ACEもこの仲間だ。構造がわかっている類似のタンパク質を見渡して,2人はカルボキシペプチダーゼAに目をつけた。これもメタロプロテアーゼの一種で,ハーバード大学のリプスコム(W. Lipscomb)らが数年前に構造を解明していた酵素だ。クッシュマンとオンデッティはカルボキシペプチダーゼAの形から推定して,どんな化学物質がACEの活性を変えるのかを予測した。これが1979年にACE阻害剤「カプトプリル」の開発につながった。「ドラッグデザイン」(化学構造を少しずつ変えて,試験を繰り返しながら狙った薬剤を作り上げる手法)によって開発された初のプロテアーゼ阻害剤だ。カプトプリルは現在も治療に使われている。
 
 類推による方法はその後も成功を収めた。血圧を下げる物質を探索する中で,研究者たちはレニンという酵素の構造を解明しようとした。レニンはACEと一緒に働いてアンギオテンシンをつくるタンパク質だ。レニンは結晶化しにくかったが,その構造の手がかりは消化酵素ペプシンの構造を調べていた研究者を通じて間接的に得られた。レニンとペプシンは活性部位にアミノ酸のアスパラギン酸があり,アスパラギン酸プロテアーゼと呼ばれる仲間だ。ペプシンのX線結晶解析画像は1930年代に撮影されていたものの,構造の解明にはてこずった。真菌類(カビの仲間)が作り出すプロテアーゼの構造を手がかりにブタのペプシンの構造が解明されたのは1970年代になってからだ。
 
 ペプシンの構造解明は,レニンの阻害剤を探るのに役立った。1980年代,レニンの酵素反応を効果的に止める阻害剤が巧妙な手法によって開発された。反応過程のうち,レニンが基質にしっかりと結合する瞬間に着目し,この遷移状態での基質の構造を調べる。基質と酵素が結合し終えた形ではなく,反応性の高い遷移状態の基質の構造をまねた阻害剤を設計した。これらのレニン阻害剤は研究室では効果を示したが,生体に投与するとレニンができる腎臓へたどり着く前に肝臓で代謝されてしまった。このため,レニン阻害剤は血圧降下剤としては有効とはいえず,しばらくは日の目を見なかった。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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