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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
エイズウイルスを無力に
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1. イントロダクション
2. 酵素の働きを探って
3. 阻害剤を設計する
4. エイズへの挑戦
5. ウイルスの繁殖を抑える
6. 標的をたたく
. 新たな展望
8. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■標的をたたく
 HIVプロテアーゼを妨げる化学物質の探索が始まった。ただ残念なことに,レニンの例で学んだように,優れた阻害作用があっても医薬品としてふさわしいとは限らない。多くの場合,阻害作用の強い薬には体が耐えられない。体の通常の機能を妨げ,毒性を示す化合物もある。またあるものは危険なほど大量に投与しないと効かない。さらに,腸でうまく吸収されなかったり,肝臓で代謝されてしまったりで,治療の目的地に届かないものもある。このためドラッグデザインでは,標的となるプロテアーゼに特異的に作用し,毒性がなく,投与量が少なくてすみ,ある程度の期間は体内にとどまって効果を発揮するような化合物を探すことが重要となる。
 
 初期に開発されたHIVプロテアーゼ阻害剤は,阻害作用は優れているものの医薬品としてはお粗末なものが多かった。しかし1992年には展望が開けてきた。アスパラギン酸プロテアーゼとしての配列の類似性から,研究者たちはかつてのレニン阻害剤に再び注目し,これを改変してHIVプロテアーゼを押さえ込もうと考えた。レニン阻害剤をもとにしたプロテアーゼ阻害剤が間もなく開発され,これが医薬品候補としても有望だとわかった。1995年12月,米食品医薬品局(FDA)は最初のプロテアーゼ阻害剤「サキナビル」を認可した。1996年春までには,さらに2つの阻害剤「リトナビル」と「インジナビル」が認可された。
 
 1996年7月にカナダのバンクーバーで開かれた国際エイズ会議では,関係者に希望を抱かせる発表が相次いだ。例えばニューヨークにあるアーロン・ダイヤモンド・エイズ研究センターのホー(David Ho)は,プロテアーゼ阻害剤とすでに1991年以降に市場に出回るようになっていたAZTタイプの抗ウイルス剤とを組み合わせたカクテル療法によって,非常に優れた結果が得られたと報告した。彼はこのカクテル療法が根本治療にはならないものの,エイズ患者の免疫細胞を増やすだけでなく,血液中のウイルス数を検出限界以下にまで減らしたことを報告した。
 
image  今日までに5つのプロテアーゼ阻害剤が極めて短期間に開発・認可され,エイズのカクテル療法に導入されている。5つの阻害剤は「アンプレナビル」「インジナビル」「ネルフィナビル」「リトナビル」「サキナビル」で,いずれもレニン阻害剤をもとに開発されたが,化学構造はレニン阻害剤とは異なる薬だ。これらの薬を開発するうえでは,HIVプロテアーゼの構造モデルが指針となった。この構造モデルによって,ウイルスが活性化し,増殖して広がるには,アミノ酸のフェニルアラニンとプロリンの間の化学結合が切れることが重要だとわかった。ウイルスのプロテアーゼはこの結合を切るのだが,哺乳動物のプロテアーゼはそのような選択的な切断を起こさないことがわかり,研究者たちは勢いづいた。つまり,フェニルアラニンとプロリンのペプチド結合を切る酵素に作用する薬なら,ウイルスのタンパク質だけに影響を及ぼすことになる。こうした薬なら哺乳動物の通常の機能を妨げないだろうから,副作用がほとんどないはずだ。構造モデルはHIVプロテアーゼの分子に対称性があること,つまり対称的な2つの部分が対になっていることも示していた。当初,科学者たちは対称的な阻害剤をつくろうと試みた。しかし,阻害剤とプロテアーゼが反応する遷移状態のうち,両者が固く結びつく瞬間には,阻害剤が非対称になることがやがてわかった。非対称な阻害剤は対称性のある化合物よりも体には使いやすく,長期的にはより優れていることがわかった。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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