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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
爆発物から治療ガスへ
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1. イントロダクション
2. 心臓と血圧
3. 爆発性の治療薬
4. 細胞のメッセージに耳を傾ける
5. EDRFの発見
6. EDRFと一酸化窒素がつながる
7. 一酸化窒素の広がり
8. 将来の治療
9. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■細胞のメッセージに耳を傾ける
 体内でニトログリセリンがどのように働くかの解明は,細胞どうしや細胞の中での化学的な情報伝達の理解と深く関係していた。1930年代後半には,ホルモンのアドレナリン(エピネフリンとも呼ばれる)や神経伝達物質のアセチルコリンといった小さな分子が神経のインパルス(信号)を伝えていることがわかっていた。これらの分子は細胞の表面に存在する受容体というタンパク質と結びつき,細胞の外で働く。いわゆる「ファーストメッセンジャー」として知られるもので,その機能の発見に対していくつかのノーベル賞が与えられた。しかし,これらのメッセンジャーによって表面の受容体が活性化した後に,それが細胞内の活動にどう翻訳されるのかは,しばらくの間はわからなかった。これを理解するには,いわゆる「セカンドメッセンジャー」の発見が必要だった。
 
 1957年,オハイオ州クリーブランドにあるウエスタン・リザーブ大学(現在のケース・ウエスタン・リザーブ大学)のサザーランド(Earl Sutherland)とロール(Theodore Rall)はアドレナリンを研究していた。このホルモンは「闘争−逃走反応」(危険に直面し,戦うか逃げるかの切迫した局面で起きる生理的な反応)で重要な役割を演じており,血液中に広がることで危険が差し迫っているという信号を伝える。信号が伝わると,グリコーゲンの形で蓄積されていたエネルギーがもっと速やかに利用できるグルコースという糖に変わるが,2人はアドレナリンが肝臓の細胞にこの変換をどのように指令しているのかを解明したいと考えた。肝細胞のアドレナリンに対する反応の仕組みを調べるため,サザーランドとロールは試験管に肝細胞を入れ,細胞を壊してからアドレナリンを加えた。しかし,こうすると反応が進まないことがわかった。細胞を壊すと,外側の膜が細胞内の成分と分離し,もはやアドレナリンに反応してグルコースを作ることはなくなった。ところが,細胞内成分を除いて細胞外側の膜だけを取り出したものにアドレナリンを加えると,アドレナリンは受容体にくっつき,セカンドメッセンジャーを作り始めた。サザーランドとロールは,このセカンドメッセンジャーがサイクリックAMP(cAMP;環状アデノシン一リン酸)であることを突き止めた。cAMPを細胞内成分に加えると,分子による情報伝達回路が完結し,グルコースの生産が始まる。この発見とそれに続く研究によって,サザーランドは1971年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
 
 アドレナリンの反応を出発点にして,サザーランドは反応を指示する分子であるcAMPを発見した。数年後,彼はこれとは逆の方向から,つまり1つの分子を出発点にして,ある謎の解明に取り組み始めた。サザーランドは1963年に尿の中から見つかったサイクリックGMP(cGMP;環状グアノシン一リン酸)の構造に着目した。cGMPはcAMPとよく似た化学物質だが,体内でcGMPが情報伝達に使われている過程は見つからなかった。サザーランドをはじめとする研究者たちは,数多くの異なるホルモンがいろいろな種類の細胞にcAMPを作るよう指示しており,増加したcAMPが及ぼす効果は標的となる細胞によって違うことをすでに発見していた。例えば肝細胞はcAMPに反応してグルコースを作るが,唾液腺の細胞は唾液を送り出す。しかし,反応はさまざまでもセカンドメッセンジャーとなるのは常にcAMPであって,cGMPではなかった。
 
 1970年代初めになって,ムラド(Ferid Murad)がcGMP機能の手がかりをつかみ始めた。ムラドは1960年代にサザーランドとcAMPを共同研究した後,シャーロットビルにあるバージニア大学に移って自分の研究室を開き,cGMPの研究を始めた科学者だ。彼はサザーランドの研究から,cAMPを作るには細胞膜上のタンパク質が必要であることを知っていた。そこで彼はcGMPの生産に関与する同様のタンパク質を分離することから始めた。グアニル酸シクラーゼ(GC)と呼ばれる酵素だ。肝臓や脳の細胞でのcGMPの生産を研究するうちに,ムラドは細胞膜に存在するGCと細胞内に浮遊しているGCではタイプが異なることに気づいた。2つのタイプを分離して調べるため,彼はcGMPの生産に影響を与える他のタンパク質ができないよう,いくつかの化学物質を添加した。すると意外なことに,試験管に添加したいくつかの化学物質はGCを刺激し,このGCによってより多くのcGMPが生じた。気管や腸などさまざまな組織にその化学物質を添加した実験では,試験管での反応と同様にGCが刺激されただけでなく,これら組織の平滑筋が弛緩した。ムラドはこのほか,ニトログリセリンなど既知の拡張剤がGCを活性化することも試験管実験を通じて発見した。
 
 ムラドはGCを活性化する化学物質に1つの共通点があることに気づいた。いずれも反応して一酸化窒素(NO)を生じるのだ。1977年,彼は一酸化窒素がGCを活性化し,平滑筋を弛緩させることを示した。2年後,ニューオーリンズにあるチュレーン大学のイグナロ(Louis Ignarro)は摘出した動脈の近くに一酸化窒素を吹き込むと弛緩反応が起きることを発見した。一酸化窒素は体の中で情報伝達を担っているのだろうか?身体はアドレナリンを引き金にcAMPを生産し,これがグルコースの生産を引き起こす。それと同様に,身体は一酸化窒素を作り出すことによってcGMPの生産や血管の拡張を引き起こしているのではないか。
 
 このアイデアは不自然に思えた。一酸化窒素は自動車の排ガスや落雷で発生する大気汚染物質で,肺を刺激し,化学やけどを引き起こす。確かに身体は一酸化窒素に反応したが,身体が普通に利用している物質ではないことも明らかだ。このように奇妙なアイデアではあったが,やがて正しいことがわかる。ただ,最終的な証明が受け入れられるまでにはかなりの歳月がかかった。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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