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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
■ポリマーと人々
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THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■石油から作るポリマー
 1950年代前半までに,ポリマーの科学と技術はともに目覚しい進歩を遂げていたが,大きな難問が未解決のまま残されていた。炭素と水素だけでできた炭化水素ポリマーは非常に有用なポリマーになる可能性を秘めていた。このタイプのポリマーは,高分子を構成する要素(モノマー)を石油から豊富にしかも安く作れるからだ。分子が小さく,最も豊富に得られるモノマーはエチレンとプロピレンで(エチレンは炭素原子の数が2個,プロピレンは3個),これらから作るポリマーは特に有望と考えられた。image06「二重結合」でつながった炭素原子の対を含む分子が集まって長い鎖を作る(図を参照)ことはずいぶん前から知られていたが(ポリスチレンが一例),エチレンとプロピレンの場合,大きな壁があった。エチレンの「重合」はすでに実現していたが,あいにく高温・高圧の条件が必要で,得られたポリマーの性質も希望通りではなかった。プロピレンの重合はまだ成功していなかった。

 1953年,ミュールハイムにあるマックス・プランク石炭研究所のドイツ人化学者チーグラー(Karl Ziegler)は,アルミニウム・炭素結合を含む化合物の反応に関する基礎研究を行う中で,チタンやジルコニウムなどの金属の塩をこれらの化合物に加えると,比較的穏やかな条件下でエチレンを重合させる非常に優れた触媒(化学反応を促進する物質)が生じることを発見した。さらに,こうして作られたポリマーは鎖が長く真っ直ぐに伸びるため,強度や硬度,化学的不活性さに非常に優れており,多くの応用が期待された。

 チーグラーのこの発見をもとに,ミラノ・ポリテクニック研究所のイタリア人化学者ナッタ(Giulio Natta)は同じような触媒がプロピレンの重合にも有効なことを示した。さらに,こうした「チーグラー・ナッタ触媒」を使えばポリプロピレン高分子の鎖の長さと構造を調節でき,その結果,ポリマーの性質をうまく調整できる。このほか,天然ゴムとまったく同じポリマーを合成できるようになったのも,この種の触媒がもたらしたすばらしい成果の1つだ。

 「チーグラー・ナッタ触媒」はすぐさま工業へと応用され,その後の改良で用途は広がり続けている。今日では,この触媒によって生産されるポリエチレンはプラスチック素材の中で最大量を誇り,ポリプロピレンと合わせると,米国のプラスチック類の年間生産量800億ポンド(約36億トン)のおよそ半分を占める。ポリエチレンとポリプロピレンの用途は建築・建設資材や容器,おもちゃ,スポーツ用品,電気器具,織物,カーペット,医療用品など,産業から日常生活まであらゆる面に浸透している。これらの用途の多くでポリマーはガラスや金属などの素材に取って代わってきたが,その独自の性質のおかげで,医療分野などまったく新しい応用分野も開けた。

1963年,チーグラーとナッタは「高重合体の化学・技術分野における発見」に関してノーベル化学賞を授与された。チーグラーはその受賞講演で,自らの先駆的発見と克服せねばならなかった科学上の障壁を回想しつつ,次のように述べた。

 「だが,実はもっと厄介な壁にぶつかるところだった。これを理解してもらうには,私が報告した研究の最も重要な部分が『石炭研究』のための組織で行われたという一見奇妙な事実を説明しなくてはならない。1943年に石炭研究所に呼ばれた時,私は研究所の名称が意味する目的に困惑した。不本意でも,応用化学分野の研究に方向転換しなければならないのだろうと考えた。ルール地方ではコークス製造のためエチレンが入手可能だったため,新しいポリエチレン製造工程の研究がなんとか研究課題になりえたといえる。しかし,最初の最初から型どおりの目標に向けて奮闘していたとしたら,私の創造的活動の源泉は完全に干上がっていただろう。当時からそう感じていたし,現在では確信をもってそういえる」。
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