遺伝子組み換え作物
1. イントロダクション
2. 新しい種子の交配
3. 従来の品種改良の限界
4. 植物の病気を上手に利用
5. 望ましい遺伝子の探索
6. クラウンゴール菌とBt遺伝子の出合い
. 遺伝的な障害
8. ウイルス抵抗性
9. 除草剤耐性
10. 遺伝子組み換え植物がもたらした問題
11. さまざまな可能性を求めて
12. クレジット
植物の病気を上手に利用
 こうした育種法の限界を打破することになった最初の手がかりが得られたのは20世紀初めのことで,植物にこぶを作るクラウンゴール(根頭癌腫)という病気の研究がもとになった。クラウンゴールは球根状をしたガンのような組織で,多くの食用植物に感染する。大きくなると,感染した果樹の幹やブドウのつる,ベリーの茎などから突き出てくる。植物の成長を損なうので,収穫高が大幅に減少する。1907年,米国農務省のスミス(Erwin Smith)とタウンセンド(C. O. Townsend)が,クラウンゴール病の原因が桿(さお)のような形をした桿状土壌細菌,アグロバクテリウム・チュメファシエンス(A. チュメファシエンス)であることを発見した。植物組織を枯死させたり,萎れさせたり,変色させる菌は知られていたが,この菌には感染した植物細胞を増殖させて腫瘍をつくる特異な能力があった。だが,この発見から成果が生まれたのは,40年後にロックフェラー医学研究所の植物病理学者ブラウン(Armin Braun)が,この菌が植物細胞をどのように増殖させるのかに興味を持ってからだった。

 1947年に1つの手がかりが得られた。ブラウンはA. チュメファシエンスのない状態で,クラウンゴール組織を培養した。通常の植物組織とは異なり,クラウンゴールは塩類と糖だけの培地で盛んに増殖し,成長ホルモンを与える必要もなかった。そのうえ,細胞は何年間も増殖し続けた。この実験からブラウンは,A. チュメファシエンスが腫瘍誘発因子を作り出し,これによって植物細胞が腫瘍細胞に変わったのだろうと推量した。

 1950年代から60年代,生物学の別の領域で画期的な発見があった。DNAが見つかり,DNAがあらゆる生物中で遺伝情報をどう伝達しているかが解明されたのだ。ブラウンの発見に刺激されて,数人の研究者がA. チュメファシエンスのDNAを調べ,腫瘍誘発因子の遺伝子を探した。普通,細菌のDNAは1本の染色体上にある。染色体は1個の長いDNA分子で,生物を作り上げるための情報を持つ多くの遺伝子で構成されている。新しい研究手法も開発され,一連の実験によって,腫瘍誘発因子は細菌の染色体上ではなく,小さな移動性のDNA上に乗っている遺伝物質だとわかった。

 1974年,フランドルの科学者シェル(Jeff Schell)とモンタギュー(Marc Van Montagu)がクラウンゴール菌の腫瘍誘発遺伝子を単離し,これが細菌中のプラスミドという移動性のDNAに乗っていることを明らかにした。次のポイントは,細菌が植物に感染したとき,細菌のプラスミド上の遺伝子が植物細胞の染色体へ移動するかどうかだ。1977年,シアトルのワシントン大学に所属していたネスター(Eugene Nester)とゴードン(Milton Gordon),チルトン(Mary-Dell Chilton)が,この移動を確認した。

 こうして,細菌の遺伝子の一部が植物細胞の染色体に入り込み,細胞分裂を誘発してこぶができることが明らかになった。そこで,創造的な科学者がこんなことを考えるようになった。「細菌によって植物の染色体に外来遺伝子が導入され,その遺伝子が安定して完全に機能するなら,細菌に手を加えて,発ガン遺伝子の代わりに病害虫抵抗性など望ましい形質を生じる遺伝子を植物に導入できるのではないか」。

 このころには,DNAを切り離したりくっつけたりする高度な技術がいくつか開発されていた(これらの技術については「Beyond Discovery」シリーズの「遺伝子診断」を参照)。植物に望みの遺伝子を導入する手段(ベクターという)としてA. チュメファシエンスのプラスミドを利用するには,まず腫瘍誘発遺伝子がどこに存在するかを突き止めて,それを取り除く必要がある。複数の研究所の科学者が1970年代末から80年代初めにかけてこれを成し遂げた。1983年に初のプラスミドベクターが開発され,A. チュメファシエンスに感染する植物については従来の育種法の限界を乗り越えることが可能になった。

 1980年代から90年代には,植物中に遺伝子を導入する別の方法が開発された。1つは「遺伝子銃」で,DNAをまぶした粒子を,植物の丈夫な細胞壁と膜を通して細胞核にまで文字どおり打ち込む方法だ。打ち込まれたDNAは核の中で植物本来のDNAに組み込まれる。もう1つは,導入したDNAが細胞壁や膜を通過できるよう,電気的処理や化学的処理を加える方法だ。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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