遺伝子組み換え作物
1. イントロダクション
2. 新しい種子の交配
3. 従来の品種改良の限界
4. 植物の病気を上手に利用
5. 望ましい遺伝子の探索
6. クラウンゴール菌とBt遺伝子の出合い
. 遺伝的な障害
8. ウイルス抵抗性
9. 除草剤耐性
10. 遺伝子組み換え植物がもたらした問題
11. さまざまな可能性を求めて
12. クレジット
望ましい遺伝子の探索
 植物中に遺伝子を導入する道具が役に立つといっても,導入したい遺伝子を発見しなければ話にならない。望ましい遺伝子探しは1901年に日本で偶然に始まった。この年,細菌学者の石渡繁胤(いしわた・しげたね)は多数のカイコが病気で死んだ原因を調査するよう依頼され,当時はまだ種類が確認されていなかった胞子形成性細菌(後にバチルス・チューリンゲンシス=Bt=と命名された)が原因だと突き止めた。

 研究者たちは昆虫を殺す細菌の価値にすぐに気づいた。1938年にはBtを含む初の殺虫剤がフランスで商品化され,主にスジコナマダラメイガの駆除に使われた。その後の50年間,Btを利用した殺虫噴霧剤がいくつか開発された。しかし,いくつかの問題もあった。これらの製品は雨で流れてしまったり,日光が当たるとすぐに分解してしまう。さらに,多くの害虫にはBt噴霧剤が効かず,効果がある虫であっても,根や茎の内部を食べる虫の場合は噴霧剤が届かない。こうした限界があり,効果に優れた化学殺虫剤が登場したこともあって,Bt殺虫剤の用途は農業や林業のごく一部にとどまった。

 しかし,その状況が1980年代に入ると変わった。よく使用される殺虫剤に多くの害虫が抵抗力をもつようになったほか,科学者も一般人もこれらの化学殺虫剤のほとんどが環境に有害だと気づいたのだ。Bt殺虫剤は特定の害虫にだけ働くうえ,土壌や葉に残留しないため,概して環境に優しいと考えられた。こうして,民間や国公立の研究所,大学などの研究機関が効果的なBt殺虫剤の研究にこぞって乗り出した。

 重要な情報が欠けていた。Btがどのようにして害虫を殺すのかという点だ。初のBt殺虫剤が販売された1930年代から40年代には,この殺虫剤が確かに害虫を殺すものの,そのメカニズムは不明だった。1950年代に,いくつかの研究グループの実験から,Bt菌が作り出したタンパク質が特定の害虫を殺すことが明らかになった。その後の20年間でBt菌の菌株がいくつか発見され,それぞれの菌株が作り出すタンパク質が特定のグループの昆虫に対して有毒に働くことがわかった。1980年までには,多くの研究から,Bt菌が作り出すタンパク質は菌株によって異なり,どのグループの昆虫を殺すのかはそれによって決まっていることが明らかになった。

 次の焦点はBtタンパク質の形成に関わる遺伝子の発見だ。Bt菌の遺伝子が働いて有毒タンパク質を作るのは菌が胞子を作り始めるときだけだが,その原因を探っていた2人の微生物学者の研究によって,この遺伝子が絞り込まれた。シアトルのワシントン大学に所属していたホワイトリー(Helen Whiteley)とシュネップ(Ernest Schnepf)の2人で,殺虫タンパク質は細菌が作り出した結晶のような形の組織中に存在することを1981年に発見し,殺虫タンパク質を作る遺伝子をDNA組み換え技術を使って単離した。1989年までには,特定の昆虫グループに有毒なタンパク質を作る40種類以上のBt遺伝子が特定され,多くの研究者によって複製されるようになった。
   
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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