遺伝子組み換え作物
1. イントロダクション
2. 新しい種子の交配
3. 従来の品種改良の限界
4. 植物の病気を上手に利用
5. 望ましい遺伝子の探索
6. クラウンゴール菌とBt遺伝子の出合い
7. 遺伝的な障害
8. ウイルス抵抗性
9. 除草剤耐性
10. 遺伝子組み換え植物がもたらした問題
11. さまざまな可能性を求めて
12. クレジット
遺伝的な障害
 1987年,3つの研究グループがワタのゲノムにBt遺伝子を導入し,そのワタに2種類の害虫を放してみた。残念なことに,遺伝子組み換えワタは普通のワタと同じくらい害虫の被害を受けた。組み換えワタは害虫から身を守るのに十分な量のBt毒素を生産できなかったのだ。Bt遺伝子を細菌から植物に導入する際,何かが失われたようだ。この新たな謎を解かなくてはならない。

 幸い,解決のカギが基礎研究から得られた。書き言葉で文字の並びが特定の単語を表すように,DNAの言葉でも4種類のヌクレオチド塩基を示す文字──アデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),チミン(T)──の順番が,タンパク質を構成する特定のアミノ酸を示す。タンパク質はアミノ酸でできている。細胞がタンパク質をつくるには,まず自分のDNAをメッセンジャーRNA(mRNA)に転写する。mRNAはタンパク質の青写真の役目をし,アミノ酸を適切な順番に並べるのを助ける。Bt遺伝子は通常の植物遺伝子よりもずっと多くのAとTを含んでいるため,植物体の中ではこの遺伝子に対応するmRNAは不安定になる。このため植物細胞内で作られるBt遺伝子のmRNAは不完全になり,mRNAの青写真の読み取りが遅くなるため,植物細胞中のBtタンパク質濃度が低くなると考えられた。

 この問題を解決するため,研究者たちはBt遺伝子のスペルを書き変えた。AとTの一部をGとCに交換した結果,Bt遺伝子のmRNAが植物中で安定化し,機能しやすくなった。タンパク質のアミノ酸配列は変わらない。1990年には害虫を防ぐのに十分な量のBt毒素を作るよう遺伝子を組み換えた「Btワタ」が完成した。植物の遺伝子工学における記念碑的な成果だ。
   
前へ 次へ
原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
このウェブサイトは米国科学アカデミー(NAS)と日経サイエンス社の取り決めをもとに作られています。
Copyright Japanese Edition 2002 by Nikkei Science, Inc. All rights reserved.
Copyright 2002 by the National Academy of Sciences. All rights reserved.
2101 Constitution A venue, NW, Wadhington, DC 20418