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優秀賞「KGT賞」
『極小・超高速半導体デバイスを設計するための
量子輸送シミュレーション』

●Fasol Gerhard(ファーソル・ゲルハルト)
東京大学生産技術研究所助教授


図1 

図2 

図3 

図4 

図5 

図6 

図7 

図8 

図9 

図10 


 近年,数多くの研究グループが,量子力学的効果(電子の波動性)を実験的に直接
観測しようと試みている。目ざましい成果の一つは,IBMのアイグラーによる“量子
コーラル”である。彼は,数10個の原子からなるサークル(量子コーラル)を原子間
力顕微鏡の探針でつくり,その中に閉じ込められた電子の定在波の像を,走査トンネ
ル顕微鏡を使って直接とらえた。
 また,電子波のコヒーレンス(可千渉性)を応用した新しい光・電子デバイスが数
多く提案され,そのいくつかは実際に利用されつつある。例えば,超格子中における
電子波のブロッホ振動を利用した発振器は,私の知る限り未だ実現されていないが,
テラヘルツ(=1012ヘルツ)の電磁波の発生源として,通信分野での応用が考えられ
る。
 これらの実験結果の解析やデバイスの設計を行うのに,シミュレーション計算は極
めて重要かつ有益である。
 私は,極小・超高速デバイス中における,コヒーレントな電子波の伝播をモデル化
するシミュレーション計算を発展させた。これにより,デバイスの時間応答,電流分
布,抵抗などの計算はもとより,電子の波動関数のカオス的な時間変化を,視覚的に
とらえられるようになった。
 私が行っているシミュレーション計算では,散乱と相対論的効果を無視し,時間に
依存するシュレーディンガー方程式を解く手法を用いている。実際の計算では,空間
を160万個に分割し,その各点における波動関数の値をl/l000ピコ秒(1ピコ秒=10−
12秒)刻みで求めている。このような大規模なモデルにおいて,時間とともに変化す
る電子の波動関数を計算するのに,この手法は他の解析方法より優れているので,カ
オス的な系の解析などに適している。
 一例として,散乱体を規則的に並べた格子により,電子の波束が回析される様子を
シミュレーション解析した結果を示す。ここでは,微細加工技術により作製した半導
体デバイスを対象にしているが,電子顕微鏡も原理は同じである。従って,電子顕微
鏡の像を形成するのに,ここで示す計算モデルをそのまま適用することができる。
 図1は,解析した電子波千渉デバイスのポテンシャルの鳥瞰図である。左側の細い
導波路から,ポテンシャル島(散乱体)を周期的に配置した格子領域へ電子の波束を
入射させる。計算では,電子の運動エネルギーを7.5meV,有効質量を自由電子の質量
の0.067倍と仮定した。以下の図2〜10は,電子の波束が時間の経過とともに伝播して
いく様子を描いたものである。電子の波動関数は一般に複素数なので,図にはその実
部のみを表示した。
 計算を開始してから4ピコ秒後に,電子の波束は回折格子に到達する。このあと,
非常に複雑な,カオス的な模様が格子領域に現れている。約10ピコ秒後,反射された
波束の一部は左側へ戻り始め,格子の右側へ通り抜けたコヒーレントな電子波は,ポ
テンシャル格子の周期性を反映して回折像を形成する。
 20ピコ秒経過後の最後の図を見ると,入射方向と平行に進んで行く波の他に,α+l
=+23.5°,α−1=−23.5°の方向へ進む2つの波束が明らかに現れている。これらの
角度は,古典的な解析法(ブラッグの方程式)で求めた最低次の回析像のものと一致
している。本研究は,現代の高性能計算機とコンピューターグラフィックス技術を駆
使したシミュレーション計算により,複雑な自然現象を画像化して視覚的に理解する
のがいかに有効であるかを示している。
 詳細は私のWWWホームページ http://kappa.iis.u-tokyo.ac.jp/~fasol/home.htmlを参照し
てください。