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日経サイエンス 2003年4月号
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予知への新しい手がかり 地震連鎖のメカニズム
R. S. スタイン
次の大規模地震は世界のどこでいつ起こるのか――。それを予知することは地震研究者にとって長年の夢だった。1990年代初めまでは,地震の原因となる断層運動は非常に複雑であり,史上最大級の地震でも何の前ぶれもなくいきなり発生し,予測はできないと結論づけるしかなかった。大地震が起こり,それに続く余震が収まれば,一般に数百年から数千年かけて地殻に応力が蓄積するまで,断層は静穏化した状態を保つ。多くの地震学者は今でもそう考えている。
しかし,最新の発見によってこの前提が覆り始めている。従来の予想と違って,地震は相互に影響し合っているというのだ。いったん大地震が起こると蓄積した応力が解放されるため,次の大地震が発生する確率は低くなると考えられている。これに対して新説では,震源となった断層の別の場所や近くの断層で,地震発生確率が実際には3倍に高まることもある。救助部隊を配置したり保険料を設定したりする必要に迫られたとき,被害を受けやすい場所はどこかを見定めるうえで,こうした精度の高い予測は欠かせなくなるだろう。
この新しい仮説は「ストレストリガリング(応力誘発)説」と呼ばれる。その核心にあるのは,隣接する断層の変動や地震動によって生じるわずかな応力の変化に,意外にも断層は敏感に反応するという新たな事実だ。これまでの地震記録や断層運動に関する計算結果から,次のようなことがわかった。地震によって解放される応力は消えてしまうわけではなく,震源断層から周辺の地域に再分配され,その後も集積したままとなるのだ。
こうした応力の急激な増加によって,次の地震が起こりやすくなる。さらに1992年から20あまりの断層を調べた結果,自動車タイヤを膨らませるのに必要な空気圧の1/8ほどの応力が増えただけでも,地震が誘発される可能性があると考えられるようになった。
これまでは,大地震の間にこうした微妙な相関関係が存在するとは誰も考えておらず,地震予知に役立てようという発想もなかった。だから,新たな地震予知の手法として受け入れることに懐疑的な科学者が多かったのも無理はない。しかし,カリフォルニア州や日本,トルコで,大地震の後に続いて起こった地震の発生地点やその頻度をうまく説明できたことから,応力誘発説への信頼が高まっている。
地震災害に対して精度の高い警報を発信したい――。この願いを実現するために,私たちは地震の相互作用の解明に取り組んでいる。
キーワード:
余震/断層/クーロン応力/大森の公式/応力転移/トグル地震活動/ストレストリガリング説(応力誘発説)/すべり速度・状態依存摩擦構成法則(摩擦法則)
著者
Ross S. Stein
スタインは地球物理学者で,カリフォルニア州メンローパークにある米国地質調査所(USGS)の地震災害部門に所属している。1980年にスタンフォード大学でPh.D.を取得後,コロンビア大学のポスドク(博士研究員)を経て,1981年に地質調査所に入所した。米国海外災害援助局(OFDA)など政府機関や欧州の再保険会社であるスイスリー社といった民間企業から資金供給を受け,地震災害査定法の精度向上に努めてきた。この記事で取り上げた研究に対して,USGSから2000年にユージン・M・シューメーカー賞を贈られた。2001年には,米国地球物理学会の年次総会での講演「地球物理学の最前線」の中で研究成果を発表。CATVや衛星放送で放映されるラーニングチャンネルの「トルコ大地震」などのドキュメンタリー番組にも出演した。
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