■J.A.ユーエン
プラスチック産業は今,1つの触媒によって大きく変わろうとしている。この触媒が作り出すプラスチックは,これまでと同じ原料を使っているにもかかわらず,より透明で衝撃力に強く,放射線を受けても分解されにくい。この触媒を使うと,用途に応じた特性をもつプラスチックを自由に作れるようになる。
この触媒をメタロセン触媒という。触媒の研究の歴史は試行錯誤の歴史であり,その中心には常に1950年代に生まれた触媒,チーグラー・ナッタ触媒の存在があった。
化学者はなんとかこの触媒を越える触媒を作ろうと努力してきたが,果たせないでいた。しかしついに,それを越える触媒が現われた。メタロセン触媒だ。その開発のカギは,触媒の中のミクロの世界で見られる,分子の不思議な行動の解明にあった。
著者は民間企業にあって,メタロセン触媒の開発を初期の段階からリードしてきた。この論文はメタロセンの可能性に賭け,何度も失敗を繰り返しながらも,ユニークなアイデアをもとに道を切り開き,実用化までこぎつけた著者の半生の歴史である。
研究以外のドラマもあった。最初はだれの関心も引かなかったメタロセンだが,将来性が明らかになるにつれ,著者は,もといた会社に研究成果の帰属をめぐって訴えられた。しかし,著者は多くの化学者のあたたかい支援を受け,5年にわたる法廷闘争に勝利した。(編集部)
著者 John A.Ewen
1979年テューレイン大学(ニューオーリンズ)でPh.Dを取得。1980年から1984年までテキサス州ベイタウンのエクソン・ケミカルに触媒化学者として勤務。翌年,テキサス州ディアパークのフィナ・オイル・アンド・ケミカルに移り,ポリプロピレンの合成とジルコニウム系触媒の研究に取り組む。1991年,カタリスト・リサーチ・コーポレーション(ヒューストン)を設立。工業触媒関連の企業コンサルタントとして腕を振るっている。 |