NEWS
SCAN
がん治療
副作用を生き抜くための薬
テロ対策として始まった米国の医薬品開発が放射線治療対策として実を結ぶかもしれない
9.11同時多発テロ以降,米国議会は放射性兵器によるテロを懸念した。通常爆薬の周りに放射性物質を充填し,爆発させてまき散らす「ダーティーボム(汚い爆弾)」が特に心配された。2004年,議会は放射線傷害から人体を守る薬を開発すべく,複数の研究拠点に研究費を出した。だが,この恩恵を最も享受するのはテロ被害者や救急隊員ではなく,より多くの人々,がん患者かもしれない。
米国のがん患者数は約1050万人。患者は2つの敵と闘う。「病気そのものだけでなく,治療からの生還が求められる」とロズウェルパークがん研究所基礎研究部門のグドコフ(Andrei Gudkov)はいう。放射線治療や抗がん剤は腫瘍だけでなく健康な組織も攻撃し,長短期の合併症を引き起こすからだ。放射線治療のせいで,何年も後に別の腫瘍が生じることさえある。合併症のため,十分な量の放射線を照射できない患者も多い。
「合併症の可能性を下げられれば敵を半減したことになる」とバージニア・コモンウェルス大学の放射線腫瘍学者アンシャー(Mitchell Anscher)はいう。
2004年の法律を受けて,米国立アレルギー・感染症研究所は2005年10月,全米で8つの「対放射線医学処置研究センター」を作った。政府はこれまでに5600万ドルを費やし,今後3年間でさらに8200万ドルを投じる計画。
フリーラジカルを無害に
1つの戦略はフリーラジカルの無害化を目指している。フリーラジカルは放射線が分子から電子をたたき出してできる正電荷を帯びた化学物質で,毒性が強い。体内にはフリーラジカルが体に損傷を与える前に無害な分子に戻す「スーパーオキシドジスムターゼ」という天然の酵素があり,この酵素を模倣した薬の開発が進んでいる。
ピッツバーグ大学のグリーンバーガー(Joel Greenberger)は動物実験で,マンガン・スーパーオキシドジスムターゼによって,放射線治療中と72時間後まで,食道を損傷から守れることを示した。現在,肺がん患者を対象に臨床試験が進んでいる。アンシャーとデューク大学のブジャスコビッチ(Zeljiko Vujaskovic)らは,スーパーオキシドジスムターゼを模倣した小分子「AEOL 10150」がラットの肺を損傷から守ることを示した。
長期的な副作用を緩和
最近ではがんを克服して長生きする人が以前よりも格段に増えたので,放射線治療がそうした患者に引き起こす最大級の問題,「線維症」への取り組みも重要になってきた。線維状の結合組織が過剰にできる状態だ。放射線治療に伴う最も一般的な副作用で,このために軟組織への照射線量が制限される。
線維症は痛みと腫れを生じ,筋肉の動きを制限するので,運動能力と肺活量が低下する。アンシャーらはTGF-βという免疫系タンパク質の制御に焦点を当ててきた。細胞に過剰な線維組織を作らせているのがこのTGF-βだ。TGF-βを攻撃する抗体と小分子をマウスなどに投与したうえで放射線治療を行ったところ,後の線維成長が抑えられた。
既存の心血管薬も,別の長期問題を緩和できる可能性がある。スタチンはコレステロールを下げるだけでなく,通常なら放射線で弱くなる血管を保護する。また,前立腺がんを放射線治療した2〜3年後に直腸に出血が起こることがあるが,照射前にロバスタチンを投与すると防げる可能性があり,臨床試験が始まった。降圧剤のACE阻害剤は放射線治療に伴う腎臓や肺,脳への損傷を抑えられる。
放射線損傷を軽減
放射線治療と放射性兵器の両方に対応できる薬もある。アーカンソー大学のハウアー=ジェンセン(Martin Hauer-Jensen)はソマトスタチンというホルモンに似た物質「SOM230」に取り組んでいる。放射線治療後に腸の内壁が破壊されるのは複数の酵素の働きによるが,SOM230はこれら酵素の分泌を阻害する。被曝4時間後に投与しても有効なので,ダーティーボム攻撃の際にも役立つだろう。
米陸軍が特に注目しているのが,クリーブランド・バイオラブズ社製の「CBLB502」だ。核爆発をくぐり抜けた兵士の放射線損傷を軽減する。同社の首席科学者でもあるロズウェルパークがん研究所のグドコフによると,この薬は遺伝子制御因子に働きかけ,スーパーオキシドジスムターゼの生産を増やしたり,放射線損傷と闘う免疫細胞を動員したり,正常組織のアポトーシス(細胞死)を抑制したりする。いずれも放射線治療の副作用対策にも有効だ。
インデックスへ戻る
データポインツ
穀物高騰の痛み
数十年間安定していた小麦やトウモロコシ,米など主食作物の国際価格が,2004年から急上昇している。原因は,エネルギーと肥料のコスト上昇,食物需要の急増と経済発展,バイオ燃料向けの需要増など。2004〜2007年に世界で生産されたトウモロコシの余剰分の実質的にすべて(主に米国産)が,バイオ燃料の原料となった。今後数年,作物価格は下がりそうにない。一方で,価格高騰は世界の貧しい人々をひどく圧迫しており,地域紛争を悪化させる恐れがある。
食物価格高騰を受けて |
危機にある国: |
36カ国 |
うちアフリカ諸国: |
21カ国 |
世界の穀物備蓄量: |
2003年 |
4億8630万トン |
2005年 |
4億6930万トン |
2008年 |
4億510万トン |
主要作物の予想価格は 2004年の水準に比べ |
|
2008年 |
2010年 |
トウモロコシ |
79%増 |
76%増 |
米 |
101%増 |
113%増 |
大豆 |
56%増 |
44%増 |
小麦 |
119%増 |
104%増 |
インデックスへ戻る
シミュレーション
核戦争でオゾン層が消える
コンピューターシミュレーションによると,インドとパキスタンが相互に核攻撃し合うと地球全体のオゾン層が破壊される可能性がある。もし,これら2国が広島級の原爆をそれぞれ50回ずつ発射すると,爆発力は計1.5メガトン,全世界の核兵器の0.03%にすぎないものの,被爆都市からの煙で500万トンものススが舞い上がる。これが上空80kmの成層圏にまで上がり,オゾンを破壊する反応を引き起こす。
この結果,北半球高緯度地域の上空にあるオゾンの70%が失われる。南極上空のオゾンホールに匹敵する減少だ。また,世界人口のほとんどが集中する中緯度地域上空のオゾンも約45%減る。紫外線によって引き起こされるがんなどの深刻な障害が急増するだろう。オゾン層が回復し始めるまでに5〜8年はかかるという。米国科学アカデミー紀要オンライン版4月7日号に掲載。
インデックスへ戻る
気候変動
煙突でCO2吸収
温暖化ガスの二酸化炭素(CO2)が大気に放たれる前に,煙突内で吸収できる理想的な物質が探索されてきた。しかし既存のCO2吸収材には欠点がある。価格が高すぎる,消費エネルギーが大きい,吸収量が多くない,長期にわたって使用すると不安定になる,などの問題だ。これに対しジョージア工科大学の化学技師ジョーンズ(Christopher Jones)らは最近,強力で耐久性のある固体吸着材を開発した。
この材料は多孔質シリカの表面にアミンという窒素に富んだ化合物をくっつけてある。アミンは塩基で,酸性のCO2ガスを中和する。この物質を熱すると吸着されたCO2が放出されるので,これをどこかに貯留する。
ジョーンズによると,この低コストの材料は多分岐構造を持っているので多数のアミンを保持できるのだという。また,材料を形作っている化学結合が強いので,何度も繰り返して使用できる。Journal of the American Chemical Society誌3月19日号に掲載。
インデックスへ戻る